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「未経験から農の道へ」

元理科教師が千葉県で人気の体験学習型農業で独立するまで~自分らしい農業スタイル~

2021年9月29日 卒業生のおたより

同校の卒業生同士だからこそ赤裸々に語れることがあります。
多様な農業への関わり方をする卒業生を、卒業生がインタビューするから見えてくる生の声をそのままお届けする本企画。

自分に合う農業スタイルを探すヒントになればと思います。

【今回の主役】

梅津裕一(うめづ ゆういち)
「ひとに、環境に、良いあんばい。」をテーマとした“あんばい農園” 園主。AIC関西10期生(2017年)として農業を学び、元理科教員の経験を生かした農業スタイルを移住先の千葉で行う。趣味は、ダイビング・釣り・爬虫類飼育、ときどきロードバイク。

【卒業生インタビュアー】

塩見純司(しおみ あつし)
大阪生まれ。旅行代理店にて教育旅行の企画営業を担当、この頃ブームでもあったグリーンツーリズムの魅力に引き込まれる。その後、祖父の農地を継ぐべく福岡県田川地域に移住し、農村民泊事業のPMや地域商社の立ち上げに関わる他、地方創生ライターやイベントの企画運営、中高生向けツアー造成など多岐に活動を行う。

今回の目的地はこちら、“千葉県千葉市緑区”。駅前にはニュータウン開発が進んでいるが、一歩進むと昔ながらの風光明媚な農村エリアが広がっている。ここに2019年に“あんばい農園” を設立したのがAIC関東10期の梅津裕一さん。元理科教員として中高一貫校で教鞭を執っていた経験もある梅津さんが何故農家となったのか?梅津さんの想いに迫る。

 

塩見

「本日はよろしくお願い致します」

梅津

「よろしくお願い致します。あんばい農園にようこそお越しくださいました」

 

夢だった理科教員から農業との出会い

 

塩見

「梅津さんは面白いバックボーンをお持ちとのことで、本日お話をお聞きするのが楽しみでした。まずは農家になるまでのお話をお聞かせください」

梅津

「はい、幼いころから海の生物や海に関わることに魅力を感じていました。大学・大学院でも深海生物の研究を専攻しており、科学的な面白さや魅力を伝えていく仕事をしたいと考え、理科の教員を志していました」

塩見

「おぉ、まさか内陸で農家をされている方とは思えない(笑)」

梅津

「今でも海にはよく行くんですけどね(笑)卒業後には希望した通り私立の中高一貫校に就職も決まり、当初の夢でした“担任を持ち、自分のやりたい教育を理科教育の中で実践する”ことも一時は叶いました」

塩見

「幼い頃からの夢を叶えられたのはまさに梅津さんの努力の賜物ですね。ただ“一時は”と言われましたが、何かあったんですか?」

梅津

「簡単に言いますと体を壊してしまいまして。夢でもあり意義ややりがいは感じるが『命を削ってする仕事なのか?』と自分自身に問いただす中、教員を退職することを決断しました」

塩見

「それは本当に苦渋の決断だったのでしょうね」

梅津

「そうですね。また体調もそうなのですが、やはり精神面もかなり落ち込んでしまいました。療養が必要と考えて、妻の実家があり、私の好きな海もある、そのような理由から九十九里で療養することにしました。そして、九十九里で農業と出会ったんです。ある日、体力を戻すためにリハビリをしている時に近所の農家さんからこのようなことを言われたんです。『いつも家にいるんだったら畑でもやりなさいよ』って」

塩見

「家にいるのが暇そうに見えたのかもしれませんね(笑)」

梅津

「そうだと思います(笑)ただし、いい機会でしたし、リハビリついでだとも考えて農業をしましたが、徐々にのめり込んでいきました」

塩見

「なるほど、特にどのような事に面白さを感じましたか?」

梅津

「農業は勘や経験が前面にあると思っていたのですが、全然違いました。私が今まで携わっていた“科学”が密接に関わっていたのです。様々な農業の本で勉強したり先輩農家さんに教えてもらったりすることで、色んな作物を収穫することが出来ました。しかし一つだけうまく出来なかったものがあったんです、それが“落花生“でした」

塩見

「それが落花生に特化した農家になろうとした理由の一つなんですね。なかなか上手く出来なかった作物に興味を持つのが面白いですね。まさに研究者っぽい!」

梅津

「そうですね。うまく出来ないのが悔しくて、落花生の論文を読むなど勉強を重ね、翌年にはその甲斐もあり収穫することができた。その時『次のキャリアでは農業をしてみよう』と強く想いました」

 

様々な人との出会いから独立へ

 

塩見

「農家になろうと思ってから農家になるまでは、どのように歩みを進めたのですか?」

梅津

「まずは『農業のことをもっと知りたい』と思い、ご縁のできた有機農家さんの元で研修を行うことになったのですが、この研修期間に様々な方と出会えたのが今の礎になってますね。例えば、あんばい農園で主にPRを担当していて、欠かすことの出来ない存在の三本木さんにもこの時に出会いました」

塩見

「素晴らしい研修先に出会えたのですね。特に農業は一人ではなく様々な人が関わりますし、農法一つにせよ様々な考え方がある」

梅津

「本当にそう思います。彼女との出会いは本当に大きかったですね。農業のWEBデザイナーの仕事を手掛けており、農家のネットワークを持っていたんです。その中で様々な農家さんに出向き、自分の考えている農業スタイル等を相談することができました。ちなみにAICに通っていたのもちょうど研修を受けている時だったんです」

塩見

「自分自身の農業スタイルを考える上ではやはり“引き出しの数を増やす”ことが重要ですものね。ただ研修を受けながらAICに通うのも大変だったのではないですか?」

梅津

「当時はまたリハビリ段階だったのもあり。研修も初めは週一から入り、少しずつ増やしていってる段階でした。AICで農業とは?の概念的な事を学び、研修で実践すると、バランスとしてよかったと思います」

塩見

「無理をせずに少しずつ自身の幅を広げていき、そして今の自分自身の農業スタイルを決めたのですね」

梅津

「そう思ってたのですが、なかなか自分自身のスタイルがぼんやりとしてて具体的に決めることがなかなか出来なかったんですよね。『どのスタイルが自分自身に向いているか?本当にこのスタイルでいいのか?食べていくことが出来るのか?』って自問自答する日々が続きました」

塩見

「なるほど、その後“自分のスタイルはこれだ”って思えるきっかけは何かあったのですか?」

梅津

「ある先輩農家と話していたのですが、その人は私に『人に伝える事は誰もが出来る事ではない。元教員ならその強みを活かさないと。普通の農家になってはダメだよ』と言って下さいました。畑の中に学びがあり、それを伝えていく事が自分のしたいことだと再認識し、これが体験学習型の農園を志すきっかけとなりました」

塩見

「自分自身の強みを活かすことで差別化もできますし、そこを再確認した感じですね!ちなみに落花生を主力にしようとした理由は何かあるのですか?」

梅津

「はい、これには主に2つ理由があって、一つはブランディングが出来ているということ。落花生=千葉県のブランドイメージが既にできているため、新たに個人でブランディングする必要がなく、新規就農する際の作物として相応しいと感じたのです。二つ目は“落花生”は非常に学びのある作物だと思ったからです。私の友人にも落花生の花が落ち、その後土の中で実がなっていることを知らない人も多い。生態が面白いだけでなく伝える中で驚きもある。まさに学習する上で最適な作物だと感じました」

塩見

「ここから“体験学習型農園”“落花生”と梅津さんの農業スタイルが具体的にイメージされていったのですね。ちなみに農園名の“あんばい農園”にはどのような想いが込められてるのですか?」

梅津

「はい、この農園名は、無理をせずにちょうど良いペースで生きていくという決意と、苗字に“梅”が入っていることから親友が名付けてくれました」

 

 

 

体験学習型農業を通じて

 

塩見

「続いて実際に就農された後のことを教えてください」

梅津

「はい、苦労したことで言うと“準備不足”と“経験不足ですね”。研修では農機具が揃っていて予め準備がされている状態が普通でしたが、いざ独立した自分の農場に“何が必要なのか”がわかっていませんでした。また教科書通りになることも少なく“経験値のなさ”も痛感しました。このように道具や計画性、想像力が足りませんでしたね」

塩見

「研修中では当たり前だったことが、独立すると当たり前でない事だったことはよくありますよね」

梅津

「そして自然の猛威には驚きましたね。1年目の2019年には大型の台風が直撃しましたし、2年目の2020年には新型コロナウイルスの流行がありました。この自然の猛威に対して人は無力なんだと実感しました」

塩見

「1年目から自然の洗礼ですね。。。この猛威に対してはどのような対応をされてたのですか?」

梅津

「対応と言うより“受け入れること”が大事だと考えるようになりました。当然対策をして最低限の被害にするのは大事ですが、科学やテクノロジーの力で被害を全く受けないようにと考えるのではなく、自然の猛威を受け入れつつ“終わった後にどうしたらよいか”を考えるようになりました」

塩見

「大切な考え方ですね。これが自然を相手に仕事をしていくということかもしれませんね。また苦労されたことばかり聞いてしまっていますが、逆によかった点などはありますか?」

梅津

「大きく言うと自分の農業スタイルが間違っていないと思えたことですね。初めてのお客様が体験学習に来られた際のことです。お客様が落花生の生育の話や収穫に夢中になってくれていたのがわかりました。2時間半のプログラムでしたが気が付けば3時間半以上経っていたのですが、全く疲れもせず自然体で接することができた上にお客様も満足されたと感じることができました。“学習する”と言うと少しハードルが高く感じられますが、“楽しんで体験する”ことが根本であると考えており、その“楽しんで体験する”ことを最初のお客様がたくさん見せてくれたこと、それは自分の農業スタイルが間違えではないと確信できた瞬間でした」

塩見

「素晴らしいですね。でも生産をしながら、体験のコンテンツを創り上げ、さらに集客までするとなると、チームでする大切さを学んだのではないですか?」

梅津

「まさにチームの大切さを学びました。特に体験学習型となるとやはり、集客するための“広報PR”が鍵となる。先ほどご紹介した三本木さんはそこの知識に優れており、農園のHPやSNSの開設から日々の発信など一手に引き受けてくれました。私一人でできることは限界がありますので、私にない技術や知見を持つ方とチームでしていくことが大事だと改めて感じました」

 

ここであんばい農園の体験学習型農業をご紹介!

 

あんばい農園ではいわゆるレジャー農業ではなく、五感で感じてもらう学習型の農業体験をコンセプトに、学校教育のように教員が一方的に生徒へ教える形ではなく、お客様自身が能動的に考えて感じることを大切にしております。

 

≪ステップ1≫落花生の説明と収穫体験

落花生の生体の説明や収穫に関しての簡単なレクチャーを行い、その後参加者皆様が畑に入り、お好きな落花生を選び収穫を致します。

 

≪ステップ2≫洗い&選別&袋詰め作業

収穫した落花生の実を外して洗い、実の熟し加減などを見ながら選別します。また袋詰めなどの出荷作業もご体験頂けます。

 

≪ステップ3≫試食タイム

採りたての生落花生を畑で茹でてご試食頂きます。落花生は鮮度が命、これ以上ない鮮度の落花生をお召し上がり頂けます。

 

≪ステップ4≫農家のお話&質問コーナー

農家とゆっくり話したり、些細なことなども聞けたりする時間も大切だと考えています。新たな気づきや価値観をお客様に持ち帰って頂けますよう、皆様とたくさんお話をしたいと考えています。

 

※参加費や体験実施日、予約お申込みなど、詳しくは公式サイトをご確認くださいませ。

公式サイト https://anbai0602.com/

 

理想の農業スタイルを目指して

 

塩見

「それでは未来のことをお伺いしたいと思います。農業の実務的なこともそうですが、農業を通じてどのような社会にしたいか等も教えてください」

梅津

「はい、実務的なことで言えば収穫量を増やしていく事で落花生を使用したオリジナルの加工品に挑戦していきたいですね」

塩見

「おー加工品ですか。実際に作ろうとしている商品はあるのですか?」

梅津

「実は養蜂を始める予定です。落花生と蜂蜜は凄く相性がいいんですよね。その二つを自分の畑で生産できる農家はまだまだ少ないと感じてますし、この二つの原料を使った“ピーナッツペースト”等も作っていきたいですね」

塩見

「確かに養蜂家さんなどでナッツハニーなどを作られてる方を見ると、まだナッツは輸入品のケースなども多くみられます。これが同じ畑で出来るのは魅力的な付加価値ですね。体験の部分では将来的に考えていることはありますか?」

梅津

「はい、収穫だけではなく生育から携わって頂ける取り組みとして“オーナー制度”を始めようと考えてます。お申込み頂いたオーナーは私と一緒になって、種を植え、育て、収穫するまでを一貫して体験でき、毎回その日に行う作業や落花生の生態について学べるため、落花生栽培や農業について楽しみながら学んで頂ける」

塩見

「確かに1回の体験より、より深く学びができますね。より深く学べることでファン作りにも繋がりそう」

梅津

「また“畑に来てくれた方に何を出来るか”を考えるのも大事ですけど“畑から帰った方にその後どのようなアプローチができるか”も考えていきたい。今では一般的になったオンライン配信をしていくなど学びについてももう一歩踏み込んでいきたいですね」

塩見

「確かにその視点は大事ですね。そうすることでいちご狩りなどの体験狩りなどとは一線を画した取組になりますね。最後に、農業の実務的なこと以外にも未来に向けて考えていることがあれば教えてください」

梅津

「あんばい農園は“私たち自身”“食べてくれたり、体験に来てくれる消費者”“実りを与えてくれる自然環境”、この三者が利益と不利益を分かち合いながらいい関係を築いていくことをポリシーとしてます。これは社会においても同様で、誰かが得をして誰かが傷つくという構造ではなく、その両者の距離を近づけることで少しずつ社会が優しくなると考えてます。そのような想いを農業体験を通じて伝えていきたいですね」

塩見

「大事な事ですよね。自身の利益だけを考えることが実は継続的に事業をしていくことを難しくしている場合もある。それぞれを理解し配慮し、バランスをとることが今後必要になっていくことかもしれませんね。梅津さん、本日はありがとうございました」

梅津

「ありがとうございました。是非少しでも興味を持っていただければ、あんばい農園の体験学習型農業を体験頂ければと思います。畑でお待ちしております」

 

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あんばい農園

公式サイト https://anbai0602.com/

オンラインショップ https://anbai0602.stores.jp/

 

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