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「未経験から農の道へ」
卒業生インタビュー|2020年2月にAICを卒業、新規就農の実態とは…【前編】
2020年5月28日 卒業生のおたより
今回は2019年3月にアグリイノベーション大学校(以下、AIC)に入学され、2020年2月卒業後まもなく千葉県白井市で新規就農される卒業生・杉山吉寿さんをインタビュー。
1年足らずで就農まで漕ぎつけたその道とは?数多くの新規就農希望者が直面する現状をお伝えします。
<目次>
Stage 1 梨園から始まった農業への興味と、行政からの門前払い
Stage 2 AICの学びと自らの足で得た学び
Stage 3 研修に入ってたった2週間後に農地が見つかる!?しかし待ち受けていた茨の道
Stage 4 土地探しを家の近くから再スタート。しかし…
<Stage 1 梨畑から始まった農業への興味と、行政からの門前払い>
改めて、AICに入学したきっかけを教えて頂けますでしょうか。
最初は自宅の近くにたくさんある梨畑が気になって、自分も梨を作って生計を立てられたらいいな、という程度で気軽に考えていました。
私の本業はいつまでも続けられるような職種ではありませんし、将来に向けて備えをしておくという意味で、農業という選択肢を入れておきたいと思っていました。
農業はビジネスとしての厳しさはあるとはいえ、自営農家なら雇われるわけでもないし、年齢で切られることもない。
体力や気力のある40代の内から学校に入って知識や技術を蓄え、10年間くらいかけて軌道にのせていけば、リタイアする頃にはいい感じでシフトできるのではと考えました。
卒業したらすぐ就農しよう、とか思っていたわけではなかったのですね。
そうですね。結果としてそうなっただけです。
梨農家に興味を持ったのが2018年11月頃で、自分の住んでいる市の農政課にメールを送りました。梨園をやめたい人がいたら、修行に行きたい。将来的には第三者事業承継も検討させていただきたいので、いい農家さんを紹介してくれないか、と。
そしたら、「そんな簡単に農家になんてなれません!」と門前払いを食らいまして。
「農地を借りたいのならまずは営農計画書をちゃんと書いて、それから市役所に相談しに来てください」と半ばお叱りのメールが返ってきたのです(笑)
え?営農計画書ってなんだ?っていう…。
ネットで調べたら、そういう書類を作らなくては正式に農業を始められないということがうっすらと分かりましたが、中身を見ても書き方がさっぱりわからない。こりゃ腰を据えて勉強しなきゃマズイと。
早速、社会人でも行けそうな農業大学がないかネットで調べて、AICの学校説明会に参加しました。
模擬講義をされていた石原さんに、農業現場の生の情報をたくさん教えていただいたのがきっかけで、農業に対するイメージがより具体的になり、モチベーションが一気に高まりました。果樹の講義はないのですが、AICなら、本やネットで調べながら独りで勉強するよりも、より現場に近い生の情報を聞けそうだなと思いまして、入学しました。
<Stage 2 AICの学びと自らの足で得た学び>
入学されてからは、研修先などで学びながら探していったという感じでしょうか。
そうですね。入学して一ヵ月半くらいまでは普通に授業を受け、知らないことを色々吸収できて面白いなと思っていたのですが、教室だけでは計画は前に進みそうにもないなと。
まずは農園見学をして、知見を広げてみようと考え、見学ツアーの計画を立て終わったのが4月の終わりぐらい。事務局の加藤さんや小野寺さんに相談して卒業生や農家さんの情報収集をした後、一斉に視察に行った感じです。
視察で結局何か所くらい行かれたのでしょうか。
AIC経由では、ブルーベリー農園の藤江さん(千葉県いすみ市)から始まって、オリーブ観光農園をされている鹿本さん(兵庫県淡路市/大樹建設)、アンファームさんでマンゴー、アボカドを始めとする果樹を栽培されている橋本さん(香川県三豊市)、移住し新規就農された川端さん(香川県三豊市)を訪問し、貴重なお話を聞かせていただきました。
その後も農家さんの知人の農家さん、という具合に紹介していただき、様々な農園を見てまわりました。
農業への熱意は国を超え、フィリピンでも農業視察へ
そうだったのですね!作物としてはブルーベリーと果樹、という感じですか。
その時は兼業でできる作物なら何でもよい。という程度で考えていました。
2019年4月頃、どうやって農業を始めたらいいのかヒントが欲しくて、懇意にしてくださっている茨城の農家さんを訪ねた時に、「農業をやるのは止めないけど、本業は絶対にやめるなよ」と強く言われたのをよく覚えています。
野菜にしても、生活していけるレベルになるまでには時間がかりますし、果樹は収穫までの数年間は無収入状態ですからね。
とにかく農業は甘くはないということだけは、色んな農家の方の話を聞いてよく分かりました。
将来農業一本でやっていくかは未定でしたが、本業を辞めていきなり就農するという選択肢は私にはなく、(就農への)移行期間をおいて少しずつ準備していくことだけは入学当初から決定していたんです。
手がかかる作物は対象外になるので、作れる作物が自ずと決まってきました。
それで果樹に絞られてきたのですね。
はい。種類や栽培方法にもよりますが、収穫までの数年間は管理作業がメインですからね。
でも果樹は果樹で初期投資がかかります。作物にもよりますが、苗木一本2000円~3000円、良いものだと5000円とか。ハウス、防鳥ネット、棚等も作ってもらうと数百万から数千万になります。果樹は果樹で正直ハードルが高いなと感じました。
<Stage 3 研修に入ってたった2週間後に農地が見つかる!?しかし待ち受けていた茨の道>
そこから研修されて、秋以降に土地探しも含めて動いていらっしゃったのでしょうか。
農地探しは6月くらいから始めました。
千葉県にある自治体5~6か所に直接電話をかけ、今農業大学校で勉強をしていて農地を探していて、ぜひそちらで就農してみたいという話をしたら、反応の良い自治体が2か所ありました。
「県の全日制の農業大学校を卒業してからじゃないとダメだ」と言われ、こちらの話をまともに聞いてくれないところもありましたが、厳し目の事を言われた場合は、自分の事を心配して言ってくれたのだと受け取ったほうが良いです。実際、軽い気持ちで農業を始めるのは危険だと思います。
電話攻撃を終えて、農家研修をしないと土地を紹介してもらうことは難しそうだな、ということだけは分かりました。
自治体からも紹介して頂いたのですが、最終的には自分の知り合いから紹介してもらった農家さんへ研修にいきました。
6月から10月まで、自宅から車で90分のところにある農家で研修をしてきました。意外にも、研修を始めて約2週間後には農地が見つかってしまったのです…(笑)
農地までは車で1時間半近くかかっていたのが少し気がかりでしたが、農地も確保できたので、レイアウトを考えた上で数百本の苗木を苗会社に注文してしまいました。
しかし、その後諸事情(詳細は割愛)ありまして、結果10月末に農地を手放し、その土地を離れることになりました。
<Stage 4 土地探しを家の近くから再スタート。しかし…>
農地はないけど、苗はある、マイナスの状態から再起を図ることになり、次はもう少し自宅に近い場所で農地を探してみようと考えました。
自宅の周りを3週間くらい毎日歩き、耕作放棄地や遊休地らしきところを見つけては法務局に行き、登記簿謄本を取り住所を調べて、地主さんを直接訪問したり、手紙を送って農地借用の交渉をしました。
しかし、やはり行政など第三者が間に入ってもらわないと、何の肩書もコネクションもない個人が動いても怪しまれるだけなので、再び1年前にメールを送った市の農政課に相談をすることに決めました。
「1年前は農業について何も知らない状態でメールをしたけど、今はAICで農業を学んでいて、農家研修も受けスキルも上がった。しかし困ったことに、苗は既に購入済みだが、それを植える農地が無い。農地を是非紹介して欲しい。」
という話を11月初旬に話したところ、反応は少々残念なものでした。
「失礼だけど、この程度の経験ではダメですね。県の農業大学校に行ってみてはどうですか。」「市では紹介できる農地は無いので、ご自身で探してください。見つかったら市で手続きの支援をしますので連絡してください。」と。
自分で探してもうまくいかないから、相談しに来たのに…。かなり失望しましたが、これで地元で農業をするという選択肢は私の中で完全に消え、周辺市町村を回ることに決めました。
農政課に電話攻撃をしていく中で、ある市町村が農地を紹介してくれました。
現地確認に行ったところ、農地の横に土砂集積所があってダンプカーが出入りしており、日当りも良くない。農業にはちょっと厳しいかなという感じの場所でしたので、その土地も見送ることにしました。
2019年の11月頃には、AIC事務局の萩原さんにも相談をしました。
今、ちょっとマズイ状況で、2020年3月までに土地が見つからないと、苗木を全部廃棄するか高額なキャンセル料を支払わなければならないので何とか土地を見つけたい。マイファームさんが知っている農地や地主さんを紹介していただけませんでしょうかと。
萩原さんから地主さんを紹介してもらったものの、結果的に土地は借用に至らなかったのですが、私の作った営農計画書を地主農家のご主人に見ていただき、資金計画についてプロ農家目線による貴重なアドバイスをいただけたのです。
これはその後の私の営農計画作成においてとても役立つものとなりました。
12月に突入し、さすがに苗をホールドし続けることは危険だと感じ、ここで損切りをすることに決め、苗会社さんに事情を話して、キャンセルしたい旨の電話を入れました。
幸い次の買い手が直ぐに見つかったので、キャンセル料は免除していただきました。
その翌日に、AICのゼミナールの講師・佐川さんがやっておられた、マイナビ農業の「農家の課題解決ゼミ」というイベントで農家の息子さんと知り合い、農地をお借りできるかもしれないという話を頂きましたが、諸事情によりその土地もお借りすることはできず、計画は完全に振り出しに戻ってしまいました。
大量の苗はキャンセル出来たが、土地は見つからない…農地探しの行く末は? ⇒【後編】へ続く
杉山吉寿さん(AIC関東12期生 2019年3月入学)
1973年静岡県生まれ。
現千葉県在住の外資IT会社のカントリーマネージャー兼SE。
高校卒業後、ゲーム制作系の専門学校を卒業するも、バブル崩壊後の不景気により就職できず、塾講・家庭教師、運送業、製造ライン、花屋、自動車整備、レストラン調理補助、ホテルスタッフ、山小屋スタッフ、テーマパークの係員など数多くの仕事に従事。30代後半でようやくIT業界に転職、現職に至る。AICに入る前の農業経験は、中学時代に所属していた園芸部で菊の鉢植えを育てたことぐらい。趣味は最近始めた登山と散歩。
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