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「未経験から農の道へ」

Uターン農業女子が地元で有名な農家カフェをつくるまで│みさき農園

2021年7月30日 卒業生のおたより

同校の卒業生同士だからこそ赤裸々に語れることがあります。
多様な農業への関わり方をする卒業生を、卒業生がインタビューするから見えてくる生の声をそのままお届けする本企画。

自分に合う農業スタイルを探すヒントになればと思います。

 

【今回の主役】

長崎海咲(ながさき みさき)
宮崎生まれ。代々続く農家の5代目である。農業を学ぶために単身AICへの入学とともに八百屋マイファーマーで勤務。卒業後に宮崎に戻り、農地の一部を有機農業へ切り替え“みさき農園”を立ち上げ、また2017年には農家カフェ“Sachi Cafe”をオープン。2020年には長女を出産、一児の母に。

【卒業生インタビュアー】

塩見純司(しおみ あつし)
大阪生まれ。旅行代理店にて教育旅行の企画営業を担当、この頃ブームでもあったグリーンツーリズムの魅力に引き込まれる。その後、祖父の農地を継ぐべく福岡県田川地域に移住し、農村民泊事業のPMや地域商社の立ち上げに関わる他、地方創生ライターやイベントの企画運営、中高生向けツアー造成など多岐に活動を行う。

 

宮崎県が誇る伝統的な切り干し大根をつくる「大根やぐら」

訪れたのは宮崎県宮崎市、市街地より車で30分ほど走らせてると至る所に“やぐら”が立ち並んでいる。これが今回の目的地である宮崎市田野地域の名物“大根やぐら”だ。

2017年10月、ここに農家カフェ“Sachi Cafe”をオープンしたのが今回取材するAIC関西5期卒の長崎海咲さん。AICを卒業した後に地元である田野に戻り就農、母の幸代さんとSachi Caféをオープンし店を切り盛りしている

実は筆者とは八百屋で一緒に働いていた仲である。

地元にオープンしたSachi Cafe

塩見

「久しぶりー」

長崎
「久しぶりです」

何気ない感じで取材が始まったのだが、約束をしていた日を1カ月勘違いされていたのはご愛敬。

 

―就農のきっかけは「こんな風に死にたいな」

塩見

「早速ですけど、農業をすることになったきっかけを教えてください」

長崎

「はい、私の家は代々農家なんです。でも私は農業をしたくなかった。将来はエステティシャンになりたかったです(笑) 農業をしようと思ったのは大好きだった曾お祖父ちゃんが亡くなったことがきっかけでした。曾お祖父ちゃんは“地域のこと”や“家業である農業”の話をよくしてくれました。自宅で家族全員に看取られての最期だったのですが、家族の温かさを感じた瞬間で、“家族っていいな” “自分もこんな風に死にたいな”と感じたんです」

塩見

「代々続く農家家系だったんですね!でも農家家系であっても農家を継がない人も多いですよね。ちなみにその頃みさきさんは何をしてたんですか?」

長崎

「私はその時、高校を卒業して働いていたのですが、“このままでいいんかな”と考えることも多かった時期でした。“将来自分は何をしたいんだろう”って。その時にたまたま吉田松陰の本を読んでいたところ、こんな詩を見つけたんです。『春に種を蒔き、夏に苗を植え、秋に実り、冬には蓄える、そして次の春の種になる』と。これを読んで人生と農業は一緒なんだな、と感じました。少しずつ家業の農業を意識していました」

塩見

「ちょうど曾お祖父さんが亡くなる時期、将来について考える時期、“農業”を考える時期が重なっていたんですね」

長崎

「そうなんですよ。それで思わず曾お祖父さんが亡くなる瞬間に『私が農業継ぐから安心して!』と叫んでました。家族からは『言ったなー!』と茶化されましたし、私も酔ってたんですけど(笑) でもこれで引けなくなりましたね!」

塩見

「みさきさんらしいですね(笑) ただ、勢いはあったにせよ“家業を継ぐ想い”は強くなってたのでしょうね。そして就農することになったと思いますが、農業を始めた頃はどうでしたか?」

長崎

「その当時はお母さんが中心になって農業をしていたのですが、本当に分からないことだらけ。昔、農作業を手伝ったことはあったのですが、“農作業をする”と“農業を営む”は全然違いました。『何でこの肥料を使うのだろう?何でこの農薬を使うのだろう?』ということから始まり、色々な人に聞くのだけれど、その答えもよくわからないみたいな(笑)」

塩見

「“趣味”と“仕事”は全く異なりますものね。買ってくださるお客様がいて成り立つので、どのような野菜なら買ってくれるのかを考えないといけないですもんね。わからないことも多かったとのことですが、何かで勉強されたりしたのですか?」

長崎

「もちろん出来る限り多く本を読んだりしました。でも相手は自然なので思い通りにいかないことも多かったです。お母さんに言われたことと本に書いてることと違うこともあって『それ違うっちゃー』って言い返したのですが、実際やってみるとお母さんの方が上手く野菜ができたりして」

塩見

「教科書で知れる原理原則はあるにせよ、その時々の気候条件や土壌状態、品種などによって千差万別ですもんね。それがある意味農業の面白さかもしれないですが、就農したての人にはつらい(笑)」

長崎

「あとはこんな性格なんで人に訊きまくりましたね。直売所の人や農薬会社や種苗会社の方や周りの人皆さんが先生のような感じで」

塩見

「確かにみさきさんの人懐っこい性格はこんな時に役に立ちそう(笑) ちなみに今は農家カフェをされたり、農地の一部を有機農業に切り替えたりしてますが、この農業スタイルになるのには何かきっかけはあったのですか?」

長崎

「当時はJAを通じた市場流通で出荷をしてたんですけど、自分たちが作った野菜がどのように運ばれて、どのように販売され、どのような方々が買っていかれるのかがわからなかった。そんな中一つショックなことがあって。JAの研修で大田市場の視察に参加したのですが、段ボールごとゴーヤが捨てられてました。よく見たら段ボールにお母さんの名前が書いてたんです。これはあくまで選果のミスだったので私たちが悪いのですが、自分たちの知らないところで捨てられているのはショックでしたね」

塩見

「市場流通は農家側からすると大規模な出荷が出来るメリットはあるけど、エンドユーザーが見えなかったり、値付けの決定権が無かったりしますものね。農家は“どう生産する”だけでなく“どう販売する”かも大事な事ですよね」

長崎

「そうなんです。その時にやっぱりお客様に直接想いが伝わる農園にしていきたいと考えるようになりました。お互い顔が見えて、直接お客様に買って頂く。その中で一つの方法が思い浮かんだんです。“農家カフェをしたらどうだろうか”って。お母さんの得意である料理も活かせるし、発信もできる。何より自分たちの野菜をその場で食べて頂ける」

大人気の自家製野菜のランチプレート

塩見

「そこからの発想だったんですね!でも飲食営業や開店の仕方など知ってたのですか?」

長崎

「いえ、全然(笑) まだまだ思い付きの段階でしたので。でも実現させたくって本格的に勉強したいなと考えました。そこで出会ったのがAICです。授業内容には農業の技術だけでなく経営ノウハウも含まれており、そして農家レストランや八百屋の運営もしていた。『このまま真似することができる』と思いましたね(笑) 気が付いたら入学を決めてました」

塩見

「そこで単身、1年間の京都生活になったわけですね!」

就農したての頃は栽培も苦労の連続だったという

―1年間の武者修行から地元に戻って見えた世界

休日は学校、平日は八百屋で作ることと売ることの両方を学んだ

塩見

「AICに通った1年間はいかがでしたか?」

長崎

平日は八百屋で働き、週末は農業学校で勉強するという慌ただしい一年間でしたが充実はしてました。特に今後に繋がる大きなことが2点ありました。1点目が“有機農業に出会えたこと”です。有機農業については宮崎にいる時は考えていなかったのですが、西村先生の講義に引き込まれてしまって。特に“微生物”に魅力を感じたんです(笑) 土の中に多種類の微生物が存在する事で健康でおいしい野菜ができる。多様性という意味で農業も人間も同じなんだな、と思いました」

塩見

「それがきっかけで宮崎に戻った後に農地を有機農業に切り替えたんですね。慣行農法でしていたことを有機に切り替えるのは相当な決断だったと思います。特に代々継がれている農家がために苦労しそう」。

長崎

「その点は家族が任せてくれてましたね。『好きな事したらいいよー』って(笑) 2点目は八百屋で働いたことも貴重な経験でしたね。農家だったけどまだまだ知らない種類の野菜がたくさんあるんだな、と思いました。それとお客様と直接話すのが楽しかった。農業も最終的に買ってくれるのはお客様、そのお客様と直接話ができたことで、どのような野菜が求められているのかを勉強できました」

塩見

「ここもすごく大事な視点ですよね。特にJA等の大規模な出荷ではなく、狭いけど濃く販売するにあたっては、いかにお客様の意見を吸い上げれるかが鍵ですもんね。しかも農業をしながらになると、この時間を取ることもなかなか難しい」

長崎

「そこは1年間、京都に行って勉強することを応援してくれた家族にも感謝してます。あとはやはり様々な経歴はあれど“農業”という軸で繋がった受講生や講師の方との出会いはよかったですね。この1年間は今振り返っても本当に大きかったです」

たまの休みも卒業生のところでお手伝いで実践

塩見

「そしてAICで1年間勉強していよいよ宮崎に戻るわけですね。ここからのスピード感が凄かったですよね!」

長崎

「まずは農地の一部を今までの慣行農法から有機農法へ切り替えました。そして新しい農園を“みさき農園”と名付けました。これは私の名前が“みさき”だからということもありますが、実は漢字で書くと“実咲農園”になります。“実”には“真心”、“咲”には“笑う”という意味があり、真心を込めて野菜をつくり食べる人に笑顔になってもらいたい、との思いで名付けました。そしてスピード感を持つのも大事ですが、有機農法では“土作り”が肝心とのことでここには時間をかけました。慣行農法では1週間ほどで土作りをしてましたが、有機農法では約半年、緑肥を育て漉き込んだり、微生物を増やす為の工夫としてぼかし肥料も新たに作り撒きました」

塩見

「まさにAICで学んだ事のフルコースですね(笑) そして学んだことをすぐに実践させてくれる家族の方々の理解も素晴らしいです。ちなみに農家カフェはどのようなタイミングで始まったのですか?」

長崎

「たまたまだったのですが、行きつけの美容室に行ったところその美容室の隣にお洒落な小屋ができてたんです。まさに自分たちが考えてた農家カフェにピッタリのサイズ感と雰囲気で、次の瞬間には『ここでカフェをさせてもらえませんか?』とお願いしていました。美容室の方もスムージー屋さんをしたかったらしく話がとんとん拍子に進みました」

塩見

「偶然と言えば偶然なのかもしれないですが、まさにみさきさんの積極性や周りを巻き込む力が発揮されましたね!美容室の隣の小屋なんか気が付かないことが多い(笑) ここからは順調にオープンまで進んだのですか?」

長崎

「はい、色々な方の助けはありましたが。2017年10月に“Sachi Cafe”をオープンできました。名前の由来は、来てくれたお客様に“幸”せになってほしいこと、そしてお母さんの名前の幸代から“幸”からとってこの名前になりました」

 

―変わる形と変わらない想い

塩見

「最後になりますが、将来のことをお伺いしたいと思います。特にみさきさんが大事にしていきたいことはありますか?」

長崎

「はい、変わらないモットーが3つあります。それは、①土から口まで、②笑顔、③次世代に伝える、です。安全は当たり前なこと、常に『美味しい!』と言ってもらえるものを作って、食べる人との距離を近くする農業を心がけていきたいと思っています」

塩見

「“土から口まで”や“笑顔”は今までのみさきさんのイメージなのですが、“次世代に繋げる”がモットーに挙げられているのに少し驚きました。このことを考えられたのには何かきっかけはあったのですか?」

長崎

「はい、次世代に農業や食文化の素晴らしさを伝えていくことも自分の使命だと強く考えるようになったのは、やっぱり長女が生まれたのも大きなきっかけでした。代々家族で引き継いできた“農業のこと”や“地域のこと”、そして“想い”はしっかりと伝えていきたい。そしてそれを受け取った次の世代の人は新しい“形”を作ってほしい。農業を押し付けることはしないけど、もし農業をしたいと言ってくれた時のために、“土”だけはいい状態にしておきたいな」

地域のためのイベントも積極的に開催
次世代に繋ぐために日々の土作りは欠かせない

塩見

「農業の基本はやはり“土”ですもんね。どれだけ農業の形や農業をする人が変わっても、継がれてきた“土”と継いでいく“土”は簡単には変えることができない。そこに代々の想いが詰まっているんですよね」

長崎

「そうですね!この次世代への取組については農業分野以外でもどんどんしていきたいですね。SNSでの発信はもちろんのこと、食育イベントの運営、さらにはキッチンカーを導入した取り組みもしていきたい」

塩見

「将来のこと考えるとワクワクしますね!時代によって変わるものは多くありますし、農業においては変わっていくべきことも多いですが、代々継がれてきた想いは込められている訳ですからね。“変わる形と変わらない想い”をこれからも大切にされるみさきさんのご活躍を楽しみにしてます。本日はありがとうございました」

長崎

「ありがとうございました!」

大好きな家族と歩む毎日が幸せのカタチでした

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Sachi Café 店舗情報
住所:〒 宮崎市田野町あけぼの4丁目54
電話番号:070-4495-4662
営業時間:11~15時(ランチ営業)
営業日:木曜日~日曜日・祝日(月曜日~水曜日は畑仕事のため店休)

Sachi Café(公式WEBサイト):https://sachi-cafe.net/
みさき農園(ポケットマルシェ):https://poke-m.com/producers/5213

 

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