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第4回 開催レポート*ミライの農業をつくる学生向け研修

9/6(水)は、「ミライの農業をつくる学生向け研修」STEP1<オンライン研修>第4回を開催。今回は『農福連携・GLOBALG.A.P.』をテーマに、㈱なかせ農園 常務取締役 中瀬健二氏にお話頂きました。

中瀬氏から学ぶロジカルに考えて前向きに意思決定する大事さ

皆さんの好きなサツマイモはホクホク系ですか?しっとり系ですか?それとも、さっぱり系?

なかせ農園のサツマイモ(べにはるか)は、水はけの良い阿蘇の大地で育った、しっとり、濃厚な甘さが特徴。その甘さはなんと糖度40度!現在は12haもの広大な土地でサツマイモを栽培しています。

そんな中瀬氏ですが、もともとは企業に勤め、2015年からご両親の元で就農。農業界の中では“若手”と称されますが(就農時25歳、現在36歳)、その経営手腕や現状把握力・様々な取り組みによって、ご家族と協力しながら、なかせ農園を成長へと導く経営者です。

前職で働きながら就農を目指した中瀬氏は、まずは農業経験やリーダーシップについて学んでから就農する必要があると分析し、日本農業経営大学校にて2年間勉強。その間、ご自身と同じ品目(サツマイモ)で成功をおさめている農業法人での実習や、様々な農業関係の書籍に触れるなかで出会った、農産物流通を手掛ける企業での研修など、多くの経験を力にご自身の農園で様々な改革に着手されたそうです。

なかせ農園の、ストーリー性・こだわり・伝え方

実習や書籍を通じ、直販経営で成功する秘訣として、
ストーリー性があること。こだわりがあること。それらをうまく伝えること。
この3つが揃えば成功できる!と確信を得たそうです。

まずは自身のサツマイモ農園の現状を分析。

当時はJA出荷をしていたのですが、40もの規格に応えるため選別に時間がかかり、そのため繫忙期には280時間も働いているにも関わらず、出荷するサツマイモの卸価格には大きな幅がある…。これらのムダ・ムリ・ムラを何とかしなければ、永続的に農家を続けていくことは難しい、と考えます。
そこで、JA出荷から直接販売に切り替え、規格を大きく削減しました。

加えて、販売方法も様々な工夫をしました。
1つはブランディングです。講義の中では、「蔵出しBenimo」(ベニーモ)を例にお話しいただきました。ここでも少しご紹介します。

なかせ農園のでは、昔ながらの土壁の蔵で(ストーリー)、熟成させたサツマイモのみを出荷(こだわり)。デザイナーにも監修してもらい、海外進出も視野に入れ「Benimo」と名付け、出荷をします(伝え方)。
しっとりとした舌触り、糖度40度、もはやサツマイモというより「Benimo」という名のスイーツは大人気に。海外進出も果たし、台湾の百貨店での販売会では、わずか10日で2トンもの「Benimo」が完売したそうです。

ピンチこそチャンス!GLOBALG.A.P取得や農福連携に取り組む

順風満帆に見える中瀬氏ですが、2016年には熊本地震で蔵が損壊。台湾進出二度目の際には検疫で引っ掛かりサツマイモを全量破棄。伸びる需要に応えたいが人手が不足するなど、様々な壁にもぶつかります。

でもピンチこそチャンス!と中瀬氏。

蔵は壊れたけれど、新しい貯蔵庫を建設。土の中と同じ温度と湿度に保てる貯蔵庫を建設したことにより、一年中なかせ農園の美味しいサツマイモが食べられるようになりました。
また、海外進出の失敗を契機に、2019年にはGLOBALG.A.P認証(※1)を取得。栽培管理の記録、出荷時の残留農薬テスト、異物混入(虫など)対策、作業安全の確保等、多岐に渡る項目に着手し、農園改革に乗り出します。これにより生産性が上がり収益が向上したことはもちろん、地元スーパーのGLOBALG.A.P取得作物だけを陳列できる棚にも並べることができ、知名度もアップしたそうです。

(※1):GLOBALG.A.P認証…GAP(Good Agricultural Practices:農業生産工程管理)とは、農産物(食品)の安全を確保し、消費者・生産者・環境にとって「Good」な農業の取組のことを指す。GLOBALG.A.P.認証とは、それを証明する国際基準の仕組み。
(引用:GAP普及推進機構/GLOBALG.A.P.協議会 https://www.ggap.jp/?page_id=35)

人手については、採用を繰り返すもなかなか定着せず悩んでいた時、近所の支援学校からの問い合わせで、障がい者の学生のインターンシップを初めて受け入れました。当初は不安があったと話す中瀬氏ですが、受け入れた学生の仕事ぶりが大変好評で、障がい者と健常者がともに働くことができる、と感じます。なかせ農園では2020年から本格的に農福連携(※2)の取組もスタートさせています。
現在は障がい者を数名雇用、繁忙期には地元の福祉事業所からも作業員が来てくれるそうです。

「農業は同じ作業をコツコツやらなければならないことも多く、この点、障がい者の方々は非常に真面目に、一生懸命に取り組んでくれる。彼らの姿に触発され、他のスタッフも頑張るようになり、いい効果が出ています。」と中瀬氏。
「“障がい者の方には出来ない作業がある”とは思わず、“仕組みを整え、視点を変え、誰にでもできる作業”に変えていきたい」と語ってくださいました。

(※2)農福連携…障害者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取組。農林水産省と厚生労働省が連携して、「農業・農村における課題」と「福祉(障害者等)における課題」、双方の課題解決と利益(メリット)があるWin-Winの取組として推進している。
(引用:農林水産 https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/noufuku/index.html)

農業の3Kを変える!

3Kとは、“きつい・汚い・危険”を表し、しばしば農業も3Kだと言われることがあります。中瀬さんはここに新しい3Kの確立を目指し、日々奮闘しています。

K:簡単…女性や障がい者の方でもできること。ベテランしかできない作業をなくすこと。

K:かっこいい…やりがいを持ってできる仕事にすること。

K:稼げる…利益は従業員に還元し、農業をして良かったと思ってもらえるここと。

こうした考え方が農業のスタンダードになれば、農業が当たり前の就職先の一つになる日も近いかもしれません。

受講生のアンケート

  • 農福連携の良さと夢のある農業について学ぶことができ、農業に対して希望が持てた。
  • GLOBALG.A.P認証取得や、JAから直販に切り替えられた話を聞けて良かった。
  • この学びを続けてほしいというメッセージが印象に残った。

中瀬さんから一言

「農業というのは一筋縄ではいかず、栽培だけでなく、その土地との付き合い方、取引先の見つけ方、新しい時代への対応など色々な壁や挑戦がある。だからこそ、皆さんのような農業に対する意識が高く、学びたいと思っている人がいることで、新しい開拓ができると思う。ぜひ、いまの学ぶ気持ちを忘れずにいてほしい。」
と受講生へエールを送ってくださいました。

今後の研修のご案内

【STEP2】視察研修
詳細: https://agri-innovation.jp/future-agri-r5/student-news/step2.html

◉熊本コース

日にち:10 月14日(土)~15日(日)一泊二日
宿泊先:阿蘇青少年交流の家
訪問先:
①阿蘇さとう農園(佐藤智香 氏)
②㈲阿部牧場(阿部寛樹 氏)
③ASO MILK FACTORY(阿部寛樹 氏)
④㈱なかせ農園(中瀬健二 氏)

◉兵庫コース
日にち:10 月28日(土)~29日(日)一泊二日
宿泊先:アーバンホテル西脇
訪問先:
①㈱兵庫ネクストファーム(中村朋記 氏)
②吉田農園(吉田さつき 氏)
③ヒロちゃん栗園(山本浩子 氏)
④㈱丹波婦木農場(婦木克則 氏)

【STEP3】集合研修
日にち:12 月16日(土)~17日(日)一泊二日
宿泊先:東京都内で現在調整中
講 師:ファームサイド㈱  代表取締役 佐川友彦 氏、ほか多数

詳細&お申し込みはこちら

ぜひ一緒に、ミライの農業を考え歩んでいきましょう!